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採用選考スケジュールは誰が決めるべきか

 2016年卒業の学生を対象とした新卒採用は、そのスケジュールが昨年よりも大きく後ろに遅れることがアナウンスされています。具体的には、企業の採用広報開始が2015年3月以降、面接は8月以降というのが経団連の指針となっていますが、果たして本当に守られるのでしょうか。

 経団連は毎年、新卒採用の採用スケジュールを倫理憲章という自主ルールとして定めてきましたが、経団連に加盟していない会社に影響力を与えきれないことや強制力がないこと、また罰則が明確になってないことなどから、常にそれを順守する企業と守らない企業が存在してきました。

 このような状況の中、「ルールに従わない企業に優秀な人材を先に確保されてしまう」という危機感を企業の採用担当者が抱くのは当然のことですが、その結果、結局は多くの会社が定められたタイミングよりも早くから選考を行うという事象が常態化してきました。

 ところで、企業広報や採用選考の時期を横一線に設定するのはなぜなのでしょうか?

関係者に聞くと、「学生の学業を妨げないようにするため」という判で押したような回答が返ってきますが、私の目には、学業を妨げているのは “就職活動プロセスの負荷の大きさ” のように見えます。

 学生に就職活動の実態をヒアリングすると、多くの学生が100社近くの企業にエントリーし、エントリーシート(自己紹介書)の作成や適性診断の受検、会社説明会への参加、企業研究などのプロセスに膨大な時間を費やしていることが分かります。実際に彼らのスケジュール帳を見せてもらうと、4-5ヶ月間程度は昼夜ともにビッシリと予定が詰まっています。

 彼らがそれほど忙しく就職活動を行う理由は、多くの会社に応募することが内定獲得への近道だと考えるからです。先輩の体験談や就職情報サイトの情報などに触れることで就職活動の難しさを知り、不安にかられた勢いで片っ端からエントリーをするというのがその思考を引き起こすメカニズムです。

 しかし冷静に考えてみると、多くの学生が多くの企業にエントリーすることこそが、必要以上に採用競争の倍率を高め、彼ら自身の不安を増殖させているという矛盾に気づきます。

 経団連が掲げる採用選考の指針は、こうした事態を直視せず、就職活動の問題点を “選考の時期が早いこと” にすり替え、その規制を毎年作り上げています。しかし、特定時期の学事日程を阻害しているわけではないので就職活動のタイミングを規制することにはほとんど意味がなく、むしろ、“就職活動プロセスの改善” を促すべきなのです。

 そのための着眼点は、ズバリ “採用広報の自由化” だと考えます。

 現在は、広報と選考のタイミングが規制されているため、学生が応募企業を研究する期間は実質的には2ヵ月程度しかありません。彼らはその間に志望企業の情報を収集して面接に備えるのですが、そのソースはインターネット上の画一的な企業情報と2時間程度の会社説明会のみです。キャリア採用の候補者が知人やエージェントを通してかなりの時間をかけながらさまざまな情報を得て転職活動をしていることから考えると、就業経験のない学生が充分な情報を収集するには、その期間もツールも不足していると言わざるを得ません。

 企業がより質の高い情報を多く提供すれば、学生が応募企業を適切に選択できるようになると同時に、面接を突破する能力や知識も高まります。適正な企業選択と学生の能力向上は、就職活動への漠然とした不安を低減させ、必要以上にエントリーするという無駄を断ち切るという好循環を生み出します。

 しかし、質の高い情報を多く提供するには多くの時間が必要になります。採用広報のタイミングをルールで縛ることは簡単ですが、時期を規制することは情報提供の自由度を下げ、結果として、学生に対して質の高い情報を提供することを妨げます。

 就職活動が学業に及ぼす悪影響を真剣に考えるのであれば、そろそろ学生視点で採用スケジュールを見つめ直すべきではないでしょうか。

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